僕が君にできること
親は幼い頃から折が合わなかった。顔を合わせればお互いの罵り合い。
散々暴れて出て行く父親、泣き崩れす母親。

最初は怖かった。悲しかった。でもだんだん慣れていった。


身勝手な父親も、子どものため責任を擦り付ける母親も嫌いだった。



行き場なんてなかった。


入れ違いにあることないこと噂し合う友達にも吐き気がするほどだった。



誰も信じない。誰も愛さない。


私がそうされたように全て偽ろう。そのためのここが居場所だった。
全て作り出された幻想の世界。作り出されたものでいい。本当の私のことなんて誰も求めていない。


偽っていることで私は立っていられたんだ。




モデルとしてただ着飾って笑っていればいい世界から、演じる世界へ踏み込んだ時、旬あなたに出会った。



初めてキスシーンを演じた時の相手があなただった。


あなたは私を見通していた。感情のこもらないキスそれだけで伝わっていた。


「柚木ちゃんの中には怒りと悲しみがあるね。痛々しいほどの」


烏龍茶を飲みながら微笑むあなたにその時覚えたのは怒りだった。


…私の何がわかるんだ世の中でもてはやされ、浮かれたあんたに何が…。




でも私も感じたんだ。


あなたの中にあるものが。


あなたの中にある寂しさを。



同じように偽って幻想を演じているあなたを私は求め始めていた。

< 45 / 54 >

この作品をシェア

pagetop