僕が君にできること

それでも笑っていて欲しい

「いけ~~~!!シュート!!決めろ~!!」


歓声の中一際通る声で激を飛ばすあの子。
スタメンになれず控えベンチで出番を待つ俺の晴れない気持ちをつついた。


「あの子また来てるな。酒井さんのファンらしいぜ。気合入ってるな」
同じ控えの越野が笑った。俺だってスタメンに入ったらこんな歓声の一つや二つ、いやもっと上げさせることができた。そんないじけた気持ちが渦巻いていた。


結局俺の出番はなくあの子が夢中な酒井さんの活躍で勝利した。


興奮と落胆を交差しながら観客は会場を後にしていく。
選手を待つファンの中にあの子はいつもいなかった。あれほどまで夢中でありながら酒井さんに近づかない。試合が終わるとすぐに会場をあとにし気になってしょうがない存在だった。




その後の試合で酒井さんが全く活躍できず惨敗した試合があった。
酒井さんを励まそうとするファンの中にはやっぱりあの子はいなかった。



ミーティングを終え解散し最後に控え室を出た俺は、なんとなくコートへ足を向けていた。重い扉を開けるとさっきまで歓声が渦巻いたいた余韻を残し、コートは静かに広がっていた。



スタンドに目を向けるとあの子がたった一人座っていた。
前の座席の背もたれに顎をのせぼんやりコートを見ていた。



客席の上の方から回り声をかけた。


「酒井さん残念だったね」


その声にゆっくり振り向いた。
「あっすみません。もう出なきゃダメですよね」

慌てて荷物を持ち立ち上がろうとした。

「あっ大丈夫だと思うよ、次入っていないと思うから」
「そうですか、じゃあもうちょっと」
そう言って彼女は座った。







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