僕が君にできること
雨の季節が終わりを告げ、湿気を帯びた生暖かい風が抜けるオープンテラスで向き合って座っていた。


週末の夜はこれからやってくる熱気で胸が踊る季節に沸き立つ人で、いつもに増して賑やかで、鮮やかだった。


式は夏が過ぎた頃に決まっていた。


「ごめんね遅くなって」


仕事で少し遅れて店に入ってきた朋は、少し息を切らして座った。鎖骨の辺りを広く見せたワンピースの胸元は汗で艶やかに光っていた。



熱気があるものの、時折吹いてくる夜風がちょうど良かった。デーブルに置かれたキョンドルが柔らかな風に操られかすかに揺れる。



食事とワインとお互いの仕事や他の話で時間は流れた。


キャンドルを見つめる目を朋に向けると、道を行く人の流れに目を向ける横顔があった。



「ねぇ朋。俺達・・・・幸せになれるかな」

朋は俺の言葉にハッとしてこっちを見た。

「何言ってるの隼人?幸せになれるよ」そう言って笑った。



愛おしさが憎しみになり、愛するが故に苦しめたくなる。でもそれに抵抗せず従う姿は悲しみに変わっていく。



朋は自分を罰するかのように抵抗せず気持ちを隠し続けていた。


それは俺を責め苦しめたんだ。


「何か結婚するってなったら、本当に俺でいいのかなって思って」

「プロポーズ嬉しかったよ。それこそこっちこそ私でいいの?」

そう言って朋は微笑んだ。


どうしてなんだろう。朋の言葉は俺に向けてじゃないです、誰かに向けている言葉のようで…。


そんな顔で笑うなよ。本当は苦しくてしょうがないんだろ。泣いてくれは方がずっと楽だよ、その笑顔が余計に切ないよ。


手放せばいいんだ。俺の手から放ってあげればいいんだ。わかってる、でもそれができない。

スタメンにならなかった時期、勝手に朋を支えにして俺は前向きになれていた。

だから、そばにいて欲しかった。俺のためずっと。


だから、朋の気持ちを気付かないふりをした。


俺は身勝手だ。



笑い合いはしゃぐ人の流れが不思議なくらいに静かに感じた。




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