まばたきの恋
そこまで言うと、すっかり空になったかごを抱えた。
「余計なことまで話しちゃったね」
返事がない。振り返ってここを早く逃げ出したいのに、不思議な圧力がかかって身体が動かない。
首筋をぞくりと冷たい風が撫でるような、居心地の悪い空間。
「そもそも奏多くんが変なこと言ったから、」
「ななちゃん」
言いかけた言葉を遮った静かな声。
「本気で人を好きになったこと、ある?」
ただならぬ何かを感じて振り返ると、目にしたものはいつもの奏多だった。
けれども纏っている空気感は、とてつもなくぴりぴりしている。
「そいつ、すぐに噂になった子と付き合いだした?」
”そいつ”。いつにもない荒々しさに七菜子は首を振った。
「わからない。でも、きっとーー」
その先の言葉がなかなか出てこない。
誰かに聞いたわけではない、でも自分自身に愛想を尽かしたに違いないのだ。
確信を持っていた、はずだった。つい先程までは。
そんな七菜子を見て、奏多は似つかわしくない笑みをこぼした。
どこか諦めたような、そんな顔で。