まばたきの恋



「ななちゃん。人の心はそんなに簡単じゃない」


書庫にある唯一のソファに奏多は腰掛ける。


「”なんとなく”とか”きっと”で始まったとしても、終わる時にはそうは済まされないのが恋だよ」


前傾姿勢で手首をぐるぐると回す、その何気ない仕草すら不気味に思えた。


「相手の好きなことに興味を持ったり共有したり、どんどんのめりこんでいく。それが恋だよ。自制が効かない恐ろしい”こころ”だ」



その瞳が、七菜子をしっかりと捉えた。


「そういう経験を一度でもしたことが、ある?」


その視線に真っ直ぐ射抜かれて、嘘をつくなんてとてもできない。


首を縦には振れなかった。


それを見留めた彼は、息をついて立ち上がった。


俯く表情が見えないまま、七菜子の目の前を通り過ぎて書庫を出る手前、奏多は掠れた声で呟いたのだ。



「恋のいろはも知らない人が、誰かの”こころ”を否定しちゃいけないよ」



ーーましてやそれで傷付いてるのがななちゃん自身だなんて勝手すぎるよ、と。


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