まばたきの恋
放課後を知らせるチャイムが鳴ると、七菜子は足早に図書室へ向かう。
ある時は委員としてカウンターで静かに仕事をする。
人気が少なくなり仕事が落ち着けば、読んだことのない本を手に取ったりもする。
部活動には無所属のため、時間の許す限りページを捲る。
七菜子はジャンルを問わず、色々な本を手に取る。
彼女は小説の世界を割りきっていた。
例えば、ラブストーリー。
主人公がどんなに劇的な恋愛をしていても、ちっとも羨ましくならない。
けれどもひとつだけ。七菜子には割りきれないものがあった。
(ーーあ、またこのパターン)
最近巷で話題のラブストーリー。七菜子はぱたりとそれを閉じてしまった。
その頁は、偶然出会った主人公とヒロインの手が重なり、主人公が”一目惚れ”をしてしまうという場面だった。
“彼女を一目見たとき、身体中に電気が駆け巡った”なんていう表現は、どういうことを指しているのだろう。
顔を一目見ただけでどんな魅力に気付けるというのだろう。
外面は良くても実は血の通っていないような性格だとしたら?
とんでもない性癖を持っているとしたら?
そんなこと、現実に起きたらそれこそ”本当にあった怖い話”だし、小説上でもいかにもといったわざとらしい展開だ。
一目惚れという現象を、七菜子は毛嫌いしていた。
そんな彼女にとっては恐ろしい体験をすることになったのは、残暑厳しい夏の終わりのことだった。