まばたきの恋
「ちょっと、話したいこと、あるんだけど」
上ずった声で途切れ途切れに話す彼は、耳まで赤く染まっている。
(ーー怒ってる、)
ここは誠実に謝るしかない。すっとぼけた冗談が通じない人とはいえ、こちらの不手際が悪かったのだ。
帰る時には相当へこんでいることだろうーー気は重いが、七菜子は彼の言葉を受け入れた。
「ここじゃあ、話しにくいな」
きょろきょろと辺りを見回した彼の呟きに、七菜子は仕方なく書庫で雑誌を読んでいた後輩にカウンターを任せた。
図書室を出ると彼は躊躇わず階段を上っていく。
三歩後ろについた七菜子は、彼のスリッパに目をかけた。
学校指定のスリッパ。学年毎に色分けしてあるラインが緑色だ。
(なんだ、あたしと同い年じゃない)
端正な顔立ちの割には、あまり背丈が変わらないのでてっきり年下だと思い込んでいた。
見覚えのない背中を見つめると、視線を感じたのか、彼が振り返ってぎょっとした。
そうしてどこかきまり悪そうに頭を掻いて、足早に階段を上っていく。
説教をする手前、彼はやけにおどおどしている。
不可解な行動と表情に眉を潜めながら、七菜子はその背中を追いかけた。