まばたきの恋
そこは通年立ち入り禁止の屋上へと続く階段。
人目につかない場所であるため、ここへと来る人は物好きか修羅場の人々だと七菜子は決め込んでいた。
最上階のそこに立ってようやく立ち止まった彼は、やたらと肩を上下させていた。
同じ目線に辿り着いて深呼吸をする彼を見て、七菜子は勘づいた。
この体勢は、まさか大声を出すためのそれではなかろうかと。
後ろに手を組むことはせずとも、両足は肩幅に開かれて背筋もぴんと伸びている。
彼はまさか応援団なのか、だとしたらギャップがあるーーいやそれよりも。
(大声で説教されるほどのことかこれ!)
理不尽な仕打ちに、彼が大きく息を吸い込んだ瞬間、たまらず七菜子は歯を食い縛り 両耳に手をかけた。
「えっと、あの」
吸い込んだ息の総量とは裏腹に、彼はそう口を開くと俯いてしまった。
怒鳴らんのかい、とたまらず心の内ではずっこけた。
改めて目の前の人を見つめてみると、その睫毛の伏せ方に、七菜子は既視感を覚えた。
(ーーそういえばこの人、よく図書室に来てるかも)
そこで七菜子はふと思い出す。不定期にやってきては、カウンター側の方を向いて座っている男子を。
本を借りずにぱらぱらと読んでいるのかどうなのか分からないスピードで頁を捲っているその人を。
そうして次の瞬間、思いがけない言葉が降ってきた。