まばたきの恋
思わず息をするのを忘れてしまう。時間が止まったようだった。
驚きの呪縛で固まっている七菜子は、口元に手を当てている彼を見つめた。
(顔が赤かったのは、そういうことーー)
状況を把握した七菜子はすっと姿勢を正した。
この人、あたしを好きなんだ。
「誰が、誰を好きなんですか」
驚くほど冷静な口調に、彼は目を瞬かせたのち、気まずそうに頭を掻く。
「俺が、桐谷さんを」
好きなんです――聞き取った言葉が頭の中で繰り返される。
告白を二度もさせられた相手は羞恥で両手を顔を覆ってしまった。
けれども七菜子は、他の女子とは違って頬を染めるわけでもなく、彼のその行動を女々しいとさえ感じていた。
その表情は、険しかった。
(だってこの人きっとーーあたしのことをよく知らない)
昔経験した”苦い思い出”が顔を出し、七菜子の身体は一気に力が抜けてしまった。