まばたきの恋
その場にふらふらとへたりこんでしまった七菜子の肩を、すんでのところで彼が受け止める。
「桐谷さん!」
掴まれた肩から、熱が浮かぶ。
男の人ってこんなに体温が高かったっけーーそんなことを思うと、胸が締め付けられそうになった。
誰かに心臓を握り締められているみたいに、上手く呼吸が出来ない。
七菜子は戸惑っていた。
「どうして、あたしなんですか」
やっとのことで、言葉を紡ぐ。
訪れたのは長い長い沈黙。七菜子は耐えきれず彼を見上げた。
彼は目を見開き、一つ息をついて観念したようだった。
「一目惚れ――好きになっちゃったんです」
“一目惚れ”
その言葉を聞いた瞬間、七菜子の胸の内でぐらぐらと黒い感情が沸きだした。