ダブルスウィッチ
当たり前だけれど、美しくはりのあるあの自慢の声とは違っていた。


可愛らしくはあるけれど、細く頼りない声。


えみり自身はよく知るその声を、自分の声として聞くことになるなんて思いもしなかった。


動揺するえみりに、亮介が放った言葉は一言だけ。


「朝食の支度をしてくれ」


さっさと起き上がり、ベッドをきちんと直すと、亮介はえみりを見ることなく寝室から出ていった。


(え?なに……これ)


それはえみりの知る亮介ではなかった。


意地悪で優しい彼とは別人のようで、えみりは愕然とする。


ザワザワと嫌な予感が頭をよぎった。


それでも、朝は機嫌が悪いのかもしれないと思い直して、えみりはとりあえず身支度を済ませると、亮介の後を追った。


リビングは美しい絵柄の入った家具で統一されていた。


えみりは思わず感嘆の声をあげる。


「わぁ、きれい」


そんなえみりを亮介はいぶかしげにチラリと見上げると、またそのまま新聞に目を戻した。


ソファーに腰掛け新聞を読むのが、亮介の朝の日課なのかもしれない。


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