ダブルスウィッチ
彼が本社に戻ったとき、彩子は36歳になっていた。


日本に戻ったことで、あの誓約書も無効になるんじゃないかと思ったけれど、そうはならなかった。


親が遺してくれたという土地にすでに家は建っていて、彩子と亮介はそこに住むことになる。


結婚する前から一人で住んでいたというその家には、彼の趣味がふんだんに盛り込まれた家具やインテリアで溢れていた。


落ち着いた日本家屋で育った彩子には、ずいぶん華美で落ち着かないもの。


イタリアの輸入家具なのだと聞かされて、買い替えることはもはや叶わないのだとガッカリしたのを覚えてる。


考えようによっては、持ち家があって、素敵な家具に囲まれて、何不自由なく暮らせるのだから、文句など言えないのはわかっていた。


だけど、自分の意思などなにも尊重されない場所に一生閉じ込められるのだと思ったら、彩子は気が重かった。


今さらながらにあのときの誓約書がのしかかってくる。


それは彩子がこれなら大丈夫と思った条件。


家庭に入ること、そして離婚はしないこと。


この二つだ。


< 11 / 273 >

この作品をシェア

pagetop