ダブルスウィッチ
建物から外に出たとき、ふと振り返ってその全貌を眺めた。


小綺麗ではあるけれど、安っぽく小さな建物は、えみりのような単身者が住むにはちょうどいいのかもしれない。


彩子は馬鹿にしたようにそれを一瞥すると、駅の方へと足を踏み出した。


ここがどこかもわからないから、とりあえず人通りの多い道を歩いていく。


時折、すれ違う人に道を尋ねながら、なんとか最寄りの駅に着いた。


派遣先はここから3駅ほど離れた場所にあるらしい。


ホームで電車を待つ間、スマホの画面を覗いた。


着信はもうない。


拒否したのだから当たり前なのだけれど、彩子は少しだけホッとした。


メールが来ているのに気づいて、開いてみる。


(亮介からだ!)


ドキドキしながら本文を読むと、思った通り今夜会えないか?という内容だった。


まさか、こんなに早く誘いがあるとは思わなかった彩子は、ゴクリと唾を呑み込む。


今夜、久しぶりに亮介に抱かれるのだと思うだけで、体が熱くなっていくのがわかった。


返信しようと画面にタッチしかけてから思い直す。


いつもえみりがどんな風に返信しているのかを履歴で確認する。


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