ダブルスウィッチ
簡素な返事は亮介を気遣ってのものなんだろうか?


亮介のメールも業務連絡みたいなものだっただけに、もしかしたら彩子に見つかったときの偽装工作なのかもしれないと苦笑した。


女として妻としてなど、全く見ていなかったくせに、一応そんな配慮はしてくれていたんだと可笑しくなる。


えみりの履歴と同じ内容で返信すると、彩子はスマホを鞄にしまった。


ちょうどホームに入ってきた電車に乗り込み、ドアの側に立つ。


いつもの場所に8時、とだけ書かれたメールは、毎回同じものなんだろう。


会う場所がえみりの自宅ではなかったことに、彩子は少しだけ安堵した。


あの亮介が、えみりの住む小さな部屋で過ごす姿など想像したくなかった。


自宅でさえ、彼はあまり生活感がない。


寛ぐ姿でさえ、どこか畏まったような、よそよそしいような、そんな態度なのだ。


それがもしえみりの部屋で寛いでいたとしたら、彩子は立ち直れないかもしれないと思う。


だからホテルでの密会は、ホッとしたのと同時にどこか納得している自分がいた。



< 116 / 273 >

この作品をシェア

pagetop