ダブルスウィッチ
えみりは呆然としていた。
繋がらない電話が意味していることを考えるだけで、背筋がゾッとする。
彩子は自分からの連絡を断つつもりなのだと、途方に暮れながら震える手をギュッと握りしめた。
どのくらいそうしていただろう?
えみりはゆっくり立ち上がり、キッチンからダイニングテーブルの方へのろのろと歩いていった。
亮介が口をつけなかった朝食の残骸が、残ったままだ。
あんな冷たい目をする亮介をえみりは見たことがなかった。
満面の笑みを浮かべることはなかったけれど、少なくても目尻は下がり口の端は上がる。
えみり……と自分の名を呼ぶ声も、さっきのような怒りを含む冷めたものでは決してなくて、甘さを含むものだった。
自分が焦がれてなりたかった妻という立場。
それはえみりの想像したものとはかけ離れていた。
抱かれることなく会話もない。
ただ、家政婦のように毎日家のことを完璧にこなすだけ。
いつから、こんな生活を送っているんだろう?とえみりは思う。
あの人はどんな気持ちでえみりにこの話を持ちかけたのだろう?……と。