ダブルスウィッチ
40代という年齢を考えると、もしかしたら倦怠期のようなものかもしれない。


けれど、それとは違った違和感をえみりは感じていた。


最初からこんな風だったんじゃないか?


そんな風に感じるのだ。


亮介の愛など感じられずに、えみりの存在を知ったときの彩子の気持ちを考える。


無言電話がその相手からだとわかったのはいつだったんだろう?


完璧な専業主婦として亮介の世話をしてきた彩子のプライドは、ガラガラと音を立てて崩れ去ったに違いない。


だからこそえみりに接触してきたのだ。


入れ替わるという有り得ない選択をして……


彩子もあんな薬を本気で信じていたわけじゃないだろう。


きっと限界だったのだ。


怪しい薬に頼らなければならないほど、追い詰められていたのだとわかる。


43歳にしては若く見える彩子の、最後の逆襲。


えみりはへなへなとその場に座り込むと、フローリングの床の冷たさを感じた。


ぼんやりとその床を見つめながら、指でそっと触れてみる。


キュッと音のする床は、毎日彩子が丹念に掃除をしている証拠だ。


艶々と輝くそれは、ワックスがきちんとかけられているからだろう。


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