ダブルスウィッチ
これは欲張ったえみりへの罰なのかもしれない。


人のものを奪おうとした罰。


だからそれと引き替えにいろんなものを無くした。


髪や体や声までも、えみりだった証しはなにひとつ残ってない。


たったひとつだけ願いの叶った欲しかったあの人は、えみりの姿をしていないこの体を愛してはいないのだ。


彩子に謝らなければならない、とえみりは思う。


謝って謝って、自分の体を返してもらいたい、と。


3ヶ月という約束が嘘じゃなかったとしても、その期間を耐えられる自信もなかった。


彩子のいる場所なら想像がつく。


自宅も職場も、亮介と過ごすホテルでさえも、全てえみりの場所なのだから……


テーブルに乗った皿を下げてシンクで洗っていく。


泡をたてたスポンジで丁寧に。


全て洗い終わってから、えみりは着替えるために2階へと上がった。


クローゼットを開けると、彩子の服はそれほど多くなかった。


けれど一つ一つを手に取ると、上質なものばかりだ。


シンプルなデザインのシックな色がほとんどで、えみりの私服とはまるで正反対だった。


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