ダブルスウィッチ
もう一度、顔を洗ってメイクし直す。


あの人は自分の一番綺麗に見えるメイクをしてたんだとわかる瞬間。


つけすぎないマスカラに、シャープに見えるラインにチークを乗せていく。


唇も変にグロスのあるものじゃなくて、マットなもの。


鏡の中の彩子は充分綺麗で、亮介の年代の妻としては慎ましやかで品のあるこういう女性は自慢だろうにとえみりは思う。


なのになぜ、彼は彩子を愛してはいないのか?


離婚しないと言い切ったときも、クリスマスプレゼントにネックレスを送ったと言ったときも、亮介がてっきり妻を愛しているからだと思ってた。


だけどこの結婚生活は、なにかがおかしい。


今思えば、彩子の態度もおかしかった。


普通なら、愛人にかける言葉など罵倒するものでしかないように思えるのに、彼女は常に冷静でえみりになりたがっていた。


もしかしたら、この入れ替わるということ自体が、彼女の復讐であるのかもしれないけれど、普通なら妻の座を譲ってもいいなどと思うだろうか?


離婚されないとわかっているのに、愛人などただの遊びかもしれないのに、彩子は入れ替わることを望んだのだ。


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