ダブルスウィッチ
えみりを見るその眼差しは、少し憧れを孕んでいるようにも見える。


えみりの完璧な容姿を見れば、たいていはそうなるのかもしれないが、彩子は複雑な思いでその彼女の後に着いていった。


「鈴村さん、最近彼に電話しなくて大丈夫なの?」


彼?と彩子は聞き返す。


えみりには彼がいるんだろうか?


その上で亮介とつきあっているんだろうか?


いろんな事が彩子の頭に浮かんだけれど、そうではないことが彼女の次の言葉でわかった。


「うん、前はほら、しょっちゅう昼休みに電話してたじゃない?

だからラブラブなんだなぁって、みんなで話してたんだよ?」


にこにこと屈託なく笑う彼女の名前が、福島奈美だと知ったのは、胸についているネームプレートからだ。


どうやら彩子にかけていた無言電話を、彼氏へのものだと周りは勘違いしてるらしい。


B定食の唐揚げを頬張る彼女は、同じように唐揚げを口にしたえみりを見て、そういえば……と首を傾げた。


「鈴村さんが定食とか食べるの、初めて見たかも」


瞬時に彩子は唐揚げを掴んでいた箸をピタリと止めた。


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