ダブルスウィッチ
「鈴村さん、今日はどうしたの?

ずいぶん頑張ってたね?」


ニコニコしながら声をかけてきた主任に、彩子はどう答えたものか迷った。


「いえ……そんなこともないと思いますが……」


そう言葉を濁すと、主任はえみりの肩をポンポンと叩く。


「助かるよ、この調子で頑張って?」


「あ……はい」


褒められることは嬉しいと思うけれど、他の派遣社員の人たちからどう映るかくらいは、把握してるつもりだ。


彩子はそっけなく返事をすると、失礼しますと言ってその場を後にした。


たいした仕事ではないけれど、自分の顔が緩むのがわかる。


誰かに褒められるなんて、最近はほとんどなかった。


亮介でさえ、当たり前のように生活している。


久しぶりに自分が役に立ったと実感できて、彩子は満ち足りた気分になっていた。





そんな昼間のことを思い出しながら、いつのまにか彩子はベッドで眠ってしまっていた。


もしかしたら、疲れていたのかもしれない。


えみり……


そう呼ばれた気がして彩子はハッとした。


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