ダブルスウィッチ
そっと目を開けると、そこには最近あまりちゃんと見ることのなかった亮介の顔があった。


「あっ!ご、ごめんなさい!あたし……寝ちゃってたみたい」


「よく眠ってたな?疲れてるのか?

悪かったね?そういうときは断ってもいいんだよ?」


ベッドの端に腰掛けながら、亮介はえみりの頬を撫でる。


そのまま髪に指を通して、何度も梳いた。


その優しい眼差しに彩子はドキリとする。


こんな亮介の顔を、彩子は見たことがなかった。


初めて見る夫の表情に動揺する。


笑顔を見せることさえ少なかった亮介を、彩子はそういう人なのだと無理矢理納得させていた。


それが自分以外の女性にはいとも簡単に見せていたのだと愕然とする。


「もう少し寝ててもいいよ?

俺はシャワー浴びてくるから」


そう言ってえみりの額に優しく口づけると、亮介はバスルームへと行ってしまった。


彩子の緊張がフッと弛む。


同時に涙が溢れ出た。


覚悟はしていたつもりだった。


けれど彩子への態度とはあまりにも違いすぎて、思っていたよりもショックは強かった。



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