ダブルスウィッチ



自宅に着いたとき、えみりは自分が部屋の鍵を持っていないことに気づいた。


自分は今、彩子の姿をしていたのだと改めて思い知らされる。


何度かチャイムを押してみても、誰も出てくる気配はない。


(どこに行ったんだろう?)


えみりはそう首をかしげる。


(まさか仕事に出掛けたんだろうか?)


亮介から連絡があったとしても、会うのは彼の仕事が終わったあとだ。


だいたいが8時頃、先にえみりが待っているのが習慣になっている。


まだお昼前だというのにもう出掛けたのだとしたら、仕事以外に行き先は他にないような気がえみりはしていた。


ずっと専業主婦だった彩子が面白半分に職場を訪れていてもおかしくはない。


えみりは小さく息を吐き出すと、自宅の前で待つことを諦め職場へと向かった。


もうすぐお昼休みだ。


うまくいけば、亮介に会う前に彩子を捕まえることが出来るかもしれない。


電車の中から見慣れた景色を眺めながらえみりはそう思った。


ホームに降り立ち会社へと向かう。


時間帯が違うせいなのか、彩子の体のせいなのか、会社への道程はいつもとは少し違って見えた。


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