ダブルスウィッチ
「いえ、こちらの営業事務でお世話になっております鈴村えみりの家族のものなんですが……」


年齢的に母親というのは無理があるかもしれない。


姉というのも歳が離れすぎてるような気がした。


怪しまれるかと思われたが、受付の女の子は信じたようで、さきほどとは違うにこやかな笑みを浮かべて、少々お待ちくださいと内線に手を伸ばす。


客が来ていると伝えて、彩子は降りてくるだろうか?


そんな不安な面持ちで、えみりは受付の女の子の顔をじっと見つめた。


ほどなくして置かれた受話器。


えみりに向き直った彼女の顔は、申し訳なさそうな曖昧な笑顔だった。


「申し訳ございません

鈴村はただいま席を外しているようなんですが……」


嘘だとえみりは思う。


やはり簡単には会ってくれそうもない。


携帯電話も何度かけても繋がらなかった。


きっと、もう着信拒否されているのだろう。


「わかりました

ではまたこちらからも連絡してみますので大丈夫です

ありがとうございました」


丁寧に頭を下げてその場を去る。


帰りまでまちぶせするしかないかな?とえみりは長期戦の構えをみせた。


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