ダブルスウィッチ
優しく導く指や唇は、このままでは彩子のものになってしまう。


自分は愛のない、ただの家政婦のようなあの夫婦生活をえみりに押し付けて。


それだけは嫌だった。


あの様子だと亮介は、えみりと付き合いはじめてから、もしかするとそれ以前から彩子と体の繋がりがなかったのかもしれない。


亮介を信じていればこんなことにはならなかったのだ。


なぜ亮介はあの日、彩子にクリスマスプレゼントをあげる気になったのだろう?


あれがなければ、彼女に嫉妬することなどなかったのに……


彼女は喜ばなかったと亮介は言った。


だから彩子は亮介を大事に思っていないのだと、自分は悠々自適に暮らしながら亮介を蔑ろにしているんだと、えみりは思い込んでしまったのだ。


加えて付き合い始めたときの約束。


彩子とは何があっても別れないという揺るぎない決意のようなものを亮介から告げられて、彼女は愛されてるんだと勝手に思ってしまった。


実際には彩子の立場はかごの鳥で、妻とは名ばかりの家政婦。


愛もなくセックスもない、ただ亮介の世話をするためだけの存在。

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