ダブルスウィッチ
それとも、いつもはきちんと亮介の好みの朝食を用意して、気持ちよく送り出しているのかもしれない。


鶏肉を一口大に切って口に運びながら、えみりは自嘲気味に笑った。


自分は亮介に抱かれていても、彼の好みなど何も知らない。


それを思い知らされたからだ。


彩子は何年も亮介に寄り添い、愛されずともそれが離婚されない理由だとわかっていたのかもしれない。


なぜ逃げ出さなかったんだろう?とえみりは不思議に思う。


離婚されないのがわかっていても、愛人がいると知ってなお、彼に尽くす理由はなんなのだろうと。


普通なら喧嘩になったりするだろう。


実家に帰るなり、別れを切り出すなり、いくらでも方法はある。


なのに彼女はひたすら耐えたあげく、愛人であるえみりに頭を下げることを選んだのだ。


あなたが羨ましい、あなたになってみたい、そんな思いを打ち明けて……


あの二人は少し異常だと、えみりは感じ始めていた。


他人にはわからない何かがあの二人にはあるのかもしれない。


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