ダブルスウィッチ
何をするでもなく、えみりはただひたすらそこで彩子の帰りを待っていた。


ファミレスの窓際の席からは、駅から降りてくる人の波がよく見える。


それほど大きな駅ではないから、彩子が出てくれば見つけることが出来るだろう。


自分の姿を見間違うはずもない。


えみりは窓からテーブルに視線を移すと、何杯目かの飲み物を取りにドリンクバーへと向かった。


ハーブティが選べるこの店は、えみりのお気に入りでもある。


好みの茶葉をポットに入れて、お湯を注いでからテーブルに戻った。


腕時計を確認すると、ようやく8時を過ぎたところだ。


お昼を遅い時間に食べたせいで、あまりお腹が空いていない。


すっかり暗くなった外の景色にもう一度、目を向ける。


そろそろ、ホテルに向かった頃だろうか?と。


亮介は仕事によるが、だいたい9時にはホテルを訪れるはずだった。


もうすぐ、彩子はえみりの体のまま亮介に抱かれるんだろう。


想像してしまって、えみりは胸が痛むのを感じた。


やはりいくら自分の体とはいえ、中身は彩子なのだ。


亮介が彩子と、と思うだけで胸が張り裂けそうになる。


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