ダブルスウィッチ
でも……とえみりは眉間にシワを寄せた。


それだけじゃない胸の痛みを感じていることに気づいて、えみりは戸惑う。


彩子を哀れに思う気持ち。


それがその正体だ。


亮介と結ばれはしても、心まで満たされるわけじゃない。


むしろ、今以上に焦燥感を味わうことになるだろう。


自分とは違う愛人への触れ方に、苦しくなるかもしれない。


亮介に抱かれてなお、彩子は憎しみを抱くことになると、えみりは確信していた。


(別れなきゃ……)


もともと自分のものじゃない。


えみりは苦渋の選択をしなければならないと覚悟を決めた。


それにはただ別れるだけじゃ意味がない。


彩子が亮介と普通の夫婦生活が築けるようにしなければ、と。


そうじゃなければもとに戻ることを彩子が承知しないとえみりは思ったのだ。


あれこれ頭をめぐらせて、えみりはある考えにたどり着く。


時間は9時過ぎ。頃合いだろう。


携帯を取り出し、亮介のアドレスを呼び出す。


〈今日、遅くなるんだよね?

私もたまには出掛けてきます。

友達の家に泊まるので心配しないでください。〉


そう送信して、えみりはほくそ笑む。


少しはあの夫婦のカンフル剤になるだろうか?となんとなく嬉しくなっていた。


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