ダブルスウィッチ
冷たい空気が顔を撫でて、ファーのついたキャメル色のケープコートの裾がふわりと揺れる。


七センチほどあるヒールは何度もこけそうになったけど、安定感のあるものだから折れずに済んだ。


アーガイル柄のタイツはデニールの多いもの。


寒い時期には必需品だ。


くるんと巻いた艶のあるベージュの髪は、えみりの自慢でもある。


走るたびに胸元でそれが揺れて、前髪のない額にも冷たい風が容赦なく吹き付けていた。


息を弾ませ目的のカフェの前についた途端、ジワリと汗が吹き出てくる。


冷たいと思っていた顔や手も、一瞬にして赤みが指していた。


何度も深呼吸して息を整えてから、乱れたであろう髪を手ぐしで直す。


もう一度大きく息を吐くと、えみりは緊張した面持ちで店の自動ドアを潜った。


いらっしゃいませと元気な店員の声が重なる。


そう広くない店内をグルリと見回すと、一番奥のテーブル席にえみりのピンクの携帯が見えた。


チラリと椅子に座る男性を盗み見る。


悪くない容姿にドキリとした。


明らかにえみりよりは年上だろうその人は、30代中頃くらいに見える。


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