ダブルスウィッチ
彩子の自宅の最寄り駅に降り立ったえみりは、よし!と小さく気合いを入れる。
携帯の時刻は、朝の8時だ。
仕事に行くという彩子に合わせて一緒に家を出たえみりは、まだ自宅にいるかもしれない亮介を思ってため息をつく。
彩子は律儀にもきちんと仕事には行くからと言い、あなたより優秀かもよ?なんて皮肉を言いながら、どこか楽しそうに出勤していった。
(私も、私に出来ることを、ちゃんとやらなきゃね?)
えみりは意を決して、カツカツとアスファルトを大股で歩いていく。
ここから先は、きっと戦いになるはずだ。
彩子のためにも、自分はこの結婚生活をぶち壊しに行くんだから、と。
今朝見た携帯に着信はなかった。
代わりにあったのは一件のメールのみ。
その内容にえみりは憤ったけれど、彩子はどこか寂しげに、亮介さんらしいわと笑っていた。
(契約書をもう一度よく読むように)
それだけ書かれたメールは、愛情はおろか心配さえ感じられないものだった。
けれど彩子はそれを見て笑うのだ。
いつものことだと。
10年間、それが当たり前だったのだというように……