ダブルスウィッチ
えみりの横を亮介が何事もなかったかのように通りすぎていく。
思わず振り返ると、すでに亮介は洗面所へと姿を消していて、強張っていたえみりの体からフッと力が抜けた。
話し合うつもりなどないんだと思い知って、改めて亮介に対する嫌悪感が生まれる。
きっと、このままいつもの日常に戻るつもりなのだろう。
自分の妻の契約違反をなじるでも咎めるでもなく、許してやるからもう一度よく契約書を読めと、暗に言ってるような気がした。
小さく息を吐きながら、リビングをぐるりと見渡すと、さっき亮介の置いたカップのすぐ脇に、A4くらいの紙が乗っているのに気づく。
ゆっくりとそこに近づき、綺麗な作りのテーブルからその用紙を拾い上げた。
誓約書と書かれたその紙には、ズラズラとたくさんの文字が並んでおり、自分との結婚の条件が事細かに印字されている。
無機質な文字からは冷たい印象しか感じられない。
最後の欄に、彩子らしい慎ましやかな文字でサインしてあるのが見えて、えみりは胸が締め付けられた。
このサインに、彩子は10年も縛り付けられて来たのだ、と。
思わず振り返ると、すでに亮介は洗面所へと姿を消していて、強張っていたえみりの体からフッと力が抜けた。
話し合うつもりなどないんだと思い知って、改めて亮介に対する嫌悪感が生まれる。
きっと、このままいつもの日常に戻るつもりなのだろう。
自分の妻の契約違反をなじるでも咎めるでもなく、許してやるからもう一度よく契約書を読めと、暗に言ってるような気がした。
小さく息を吐きながら、リビングをぐるりと見渡すと、さっき亮介の置いたカップのすぐ脇に、A4くらいの紙が乗っているのに気づく。
ゆっくりとそこに近づき、綺麗な作りのテーブルからその用紙を拾い上げた。
誓約書と書かれたその紙には、ズラズラとたくさんの文字が並んでおり、自分との結婚の条件が事細かに印字されている。
無機質な文字からは冷たい印象しか感じられない。
最後の欄に、彩子らしい慎ましやかな文字でサインしてあるのが見えて、えみりは胸が締め付けられた。
このサインに、彩子は10年も縛り付けられて来たのだ、と。