ダブルスウィッチ
えみりの紙を持つ手が震える。


それはたぶん衝動的なものだったのだろう。


気づけばえみりはその手に持った紙を破り捨てていた。


「何をしてる!」


後ろから亮介の怒鳴る声が聞こえて、えみりはハッと我に返った。


ひらひらと舞う紙吹雪は、原形を伴ってはいない。


えみりがゆっくり振り返ると、支度を整えて戻ったらしい亮介が顔を真っ赤にして立っていた。


フッとえみりの顔に笑みが浮かぶ。


ようやく亮介の人間らしい反応が見れて、安心したのだ。


「何をしてるのか聞いてる」


さっきより低い声で、怒りを抑えるようにもう一度そう言った亮介は、自分の妻の信じられない姿に動揺しているようにも見えた。


「何がおかしい」


怯えるでも慌てるでもなく、自分を見て笑っている事実が信じられないのだろう。


亮介のえみりを見る目は、なにか奇異なものでも見るような、そんな目をしていた。


「いえ、亮介さんでも、そんなに怒ること、あるんだなと思って」


「なに?」


「なにがあっても、いつも冷静で落ち着いてる印象だったから」


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