ダブルスウィッチ
どうせなら、元に戻ってからの方がいいのではないか?


彩子はそう思ったからだ。


けれどえみりの返事はノーだった。


「延期なんてしなくていいです

今夜、亮介さんと別れれば、明日の朝、自分の体に戻ったとき、安心できるでしょう?

それに、もし私の気が変わったらどうするつもりなんです?

元に戻れたら別れないかもしれないのに」


ほんと、彩子さんはお人好しなんだから……とえみりはクスクス笑った。


彩子は自分がえみりをいつの間にかそれだけ信用していたことに気づく。


「それもそうね?

フフッ……亮介さんだけじゃなく、私もあなたにすっかり魅いられてるのかもしれないわ?

疑うなんてこれっぽっちも思わなかったもの

不思議な人ね?あなたって」


はにかんだように笑う彩子に、えみりは思わず苦笑する。


「彩子さんこそ……憎めない人ですよね?

結局嫌いになれなかったな……」


どこか遠くを見ながらそう言うと、えみりは一度目を伏せてからゆっくりとまた彩子に視線を合わせた。


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