ダブルスウィッチ
彩子と別れてあの一軒家への道のりを歩きながら、えみりは不思議な気持ちになっていた。
たった2日だ。
彩子と初めてあの紅茶の専門店で会った日を含めれば3日しか経っていない。
あれほど焦がれてどんなことをしてでも手に入れたかった亮介との時間は一年以上。
それがたった3日であっさりと気持ちに区切りがつくなど、入れ替わるまで考えもしなかった。
今夜、亮介とえみりは別れることになるだろう。
それでも心が揺らぐことはなかったけれど、もし自分の体に戻ってしまったらどうなるかわからないという思いはあった。
さっき彩子に言った言葉は、あながち間違ってはいない。
えみりの体で亮介に会って、あの高めの優しい声で囁かれたら……あの指で触れられたら……
そう思うと、決心が揺らがない自信はなかった。
だから彩子にお願いしたのだ。
自分の知らないところで別れてくれたら、もう会わなくてすむ。
きっと連絡も寄越さないだろうから、と。
願わくは、えみりの知る亮介の顔を彩子にも見せてあげたらいい。
彩子に向けられた顔はあまりにも厳しく優しさの欠片も感じられなかった。