ダブルスウィッチ
玄関の鍵を開け、中に入る。


もう二度と来ることはないだろうこの家に、えみりは靴を脱いで上がった。


彩子からメールが来る間、家のことはほとんど終わらせてある。


せめて亮介に嫌がらせだなどと思われないようにと、えみりなりに頑張ったのだ。


広い家の中は掃除するだけでもかなりの重労働で、一部屋だけのワンルームとは比べ物にならない。


料理だけはきっと亮介の気に入るように出来る自信はないと思うから、えみりは隅々まで掃除に専念した。


洒落た家具は素敵だけれど、やけに凹凸があったり、細工が複雑だったりして掃除がしづらい。


彩子の話では彼女の趣味じゃなく、亮介が集めたものらしいと聞いて驚いた。


そんな一面をとってみても、えみりは亮介のことを何一つ知らないのだと思い知らされる。


ソファーに座りぐるりと見回してみても、やはり落ち着かない部屋だと思った。


彩子がここで何年も彼の帰りを待ち続けていたのかと思うとゾッとする。


自分には無理だとはっきりわかった瞬間だった。


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