ダブルスウィッチ
……子……彩子……
(誰?私は彩子じゃない、えみりよ?)
誰かの呼ぶ声がしてえみりはぼんやりとそう思った。
目が覚めたらワンルームのソファーベッドに横たわっているはずなのに、えみりの体に戻ってるはずなのに、なぜ彩子の名前で呼ばれるんだろう、と。
ゆっくりと重たい目蓋を開くと、目の前のありえない光景にえみりは息を呑んだ。
(……なんで?どうなってるの?)
それもそのはず、もう会うことはないだろうと思っていた人の姿が、すぐそこにあったからだ。
「……亮介さん!」
思わず目を見開いてそう叫ぶ。
(これは……夢?)
亮介の指がえみりの目尻を優しく拭う。
「泣いてたのか……」
切なそうな顔で見つめる亮介に、えみりはゆっくりと息を吸い込んだ。
「悪かったな?遅くなって……
もう、大丈夫だから……心配しなくていい……」
その言葉でえみりは全てを悟った。
自分はまだ彩子の姿のままなんだと。
「あ……お帰りなさい」
うまく頭が回らなくて、間抜けな返事をしてしまう。
心配しなくていいと亮介は言った。
それはきっと、えみりと別れてきたということなんだろう。