ダブルスウィッチ
「あぁ、ただいま……」


それでも亮介はフッと笑ってそう答える。


久しぶりの亮介の笑顔にえみりはドキリとした。


えみりの好きだった亮介を垣間見た気がしたからだ。


(勘違いしそうになる……)


今、亮介が笑いかけているのは彩子であってえみりじゃない。


わかってはいても平静ではいられなかった。


今さら強烈な嫉妬心に襲われる。


諦めたはずだったのに、えみりの心がザワザワと音を立てた。


えみりの好きだった亮介の笑顔。


もう二度と見ることはないと思っていたのに、このタイミングで見ることになるなんてと、えみりは複雑な気持ちでいっぱいになった。


ベッドに腰掛けたまま、亮介の目尻に触れていた指が頬に触れる。


彩子にはきっと今まで向けられたことのないものだ。



えみりと別れ、彩子と向き合おうとしているのかもしれない。


えみりはそう思ったものの、今のこの状況をうまく受け入れることができなかった。


「……彩子」


亮介の声が唇が、えみりではない名を呼んだ。


髪を撫でる指先も、もう自分に向けられたものじゃない。


彩子と亮介の関係が良くなることを願う自分と、亮介を失うことへの寂しさがえみりの中で葛藤していた。


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