ダブルスウィッチ
そしてまた同じ言葉を繰り返す。



「ずっと、応援してる……」



瞬間、えみりの姿をした彩子の顔は歪んだ。

涙は嗚咽に変わり、亮介にしがみつく。

優しく撫で続ける亮介の手が切なかった。

自分のために愛人と別れようとしてる夫を本来なら喜ぶべきなのに、別れたくないと思ってしまうのは、体がえみりだからなのか?

彩子は複雑な胸のうちを言葉にすることも出来ず、ただ亮介にしがみついて泣いていた。

やがて亮介の手はえみりを包み込むように抱きしめて、彩子に残酷な言葉を投げかける。



「……きみが好きだったよ

夢を追いかけて一生懸命なえみりを応援していると、自分も頑張ろうって思えた

一緒にいると楽しかったし、すごく楽な気持ちにもなれた

一瞬でもそんな気持ちにさせてくれたことを感謝してる」



震える腕が、亮介もまた泣いているのかもしれないと思わせた。

こんなに求めあっている2人を引き裂くのは自分なんだと、彩子は苦しくなる。

妻という、ただ契約で結ばれただけの立場を振りかざして、互いに必要としている2人を別れさせる意味はあるんだろうか?と。
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