ダブルスウィッチ
「……すまない

妻には、これまでずっと辛い思いをさせてきたんだ

僕がえみりとこうして楽しい時間を過ごしてる間も、彼女はそれにじっと耐えて僕を待ち続けてた

そんな風に思ってることを知って、正直混乱した

妻も僕と同じように割り切ってるんだと思ってたから……」



やはりえみりが何か言ってくれたんだろう。

どんな気持ちで妻である彩子の代弁をしたのか、それを考えただけで胸が傷んだ。

えみりは彩子に公言した通り、夫婦を修復しようとしてくれている。

それならば、自分の役割は亮介としっかり別れることだ、と彩子は思った。

えみりは昨日、別れると言ってくれたのだから。

それでも目の前の切なそうな亮介を見ていると、それでいいんだろうか?と、彩子の心に迷いが生じる。

自分が身を引けば、惹かれ合う2人を引き離さなくて済むのだ。

亮介は彩子を愛してはいない。

それは悔しいけれど、事実なのだ。



「……亮介さん、私も楽しかったです

私の夢を応援してくれて、励まされたし、頑張ろうって思えた

だけど……奥さんに辛い思いをさせてしまったことは申し訳なく思ってます

これからは……奥さんのことを一番に考えてあげてくださいね

私は大丈夫、歌があるもの」



亮介の胸に押し付けられたまま、身を切られる思いで彩子はそう言った。

きっとえみりならそう答えるだろう言葉を探しながら。







< 225 / 273 >

この作品をシェア

pagetop