ダブルスウィッチ



「いってらっしゃい」



「あぁ、いってきます

今日はそんなに遅くならないと思うから」



「じゃあ、なにか夕飯のリクエストありますか?」



「そうだな……たまには中華がいいかな?」



つい最近までなら考えられなかった朝の会話。

身体が元に戻ってからというもの、亮介の方から彩子に話しかけることが多くなっていた。

前と同じように家事をしているだけなのに、ありがとうなどと労う言葉までかけてくれる。

最初はなんとなく落ち着かないような、くすぐったいような気持ちになっていた彩子も、三ヶ月も経てばそれが当たり前の光景になりつつあった。

これが普通の夫婦のあるべき姿なのだ。

玄関先でにっこりと微笑む夫を見送りながら、彩子は不思議な気持ちになっていた。

亮介は努力してくれている。

それもこれも全部えみりのおかげだ。

夢にまでみた亮介との関係は、きっとこれから先もずっと続くのだろう。

けれどたまに思うのだ。

安心を与えようとしてくれている亮介と同じくらい、自分は彼に癒しを与えられているんだろうか?と。

えみりのようになれないのは分かり切っている。

えみりには出来ないことで、亮介は彩子に妻としての価値を見出しているのだということも。




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