ダブルスウィッチ
だから彩子は以前よりも完璧にしなければと、家事にこだわるようになっていた。

自分は亮介の仕事上のパートナーなのだという誇りを持って。

家を守り亮介を支えること。

それが自分の役目であり、亮介を喜ばせる唯一のことなのだと悟ったから。



ひと通り家事を終えて、ソファーに腰掛けると、彩子は小さく息をついた。

ふと棚の上にあった卓上カレンダーに目を止める。

9月の第三日曜日。

あと一週間でその日はやってくる。

亮介は覚えているだろうか?

その日がえみりのライブの日だということに。

つい最近、彩子はパソコンでえみりの名を検索してみた。

ブログらしいものを見つけて開いてみると、そこには相変わらず美しいえみりの写真とともに、ライブの日程が告知されていた。

小さなライブハウスとはいえ、初めての単独ライブだというコメントには、緊張と期待が見え隠れしている。

見てみたいと彩子は思う。

けれどそれはルール違反な気もしていた。

まだ、早いかもしれない。

自分はまだ亮介との夫婦生活をえみりのいうような普通のものには出来ていない、と。


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