ダブルスウィッチ


舞台の袖からそっと覗くと、たくさんの観客の姿がえみりの目に飛び込んできた。


ふぅ、と小さく息を吐き出す。


初めての大きなホールでのコンサートだ。緊張しないわけはない。


ウェディングドレスを思わせるような純白のドレスに身を包み、巻いた髪は後れ毛を残して綺麗にまとめられていた。


歌のイメージに合わせてオーダーした衣装は、えみりによく似合っている。


けれどえみりは衣装のことよりも憧れの場所で歌うことの方がよほど気になっていた。


あれから五年


えみりももう三十を過ぎた。


若いとはいえない年齢だけれど、夢を追いかけることは忘れてはいない。


今日の舞台はその夢が叶ったと言ってもいいだろう。


もちろん、それで終わりというわけではないけれど。


皮肉なことに、亮介と別れてから、えみりの歌は評価され始めた。


メジャーデビューの話をもらったのも、それから1年後のことだ。


デビューしてからは作詞も手掛けるようになり、その内容は多くの女性から支持された。


そして今年、最大のヒット曲となった楽曲を引っさげて、この大きな舞台に立つ。












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