ダブルスウィッチ



「えみりちゃん!」



そう後ろから声をかけられ、えみりは驚いた。


その声が小さな女の子のものだったからだ。


えみりのファン層はわりと高めで、20代後半から30代くらいの女性が多い。


もちろん、えみりの容姿に惹かれてファンになる男性も少なくはなかった。



けれど、小さな女の子ともなれば話は別だ。


振り返ると、4、5歳くらいの女の子が私によく似た髪型をして立っていた。


ファンとの触れ合いを大切にしているえみりは、会場を去る際に群がるファンにも握手やサインなどになるべく応えるようにしている。


その最中での出来事に、えみりははっきり戸惑った。


小さな彼女から視線を周りに巡らせる。


この子の親がそばにいるんじゃないかと思ったからだ。



けれど、それらしき人物は見当たらない。


この人混みの中で迷子にでもなったんだろうか?ともう一度彼女に視線を戻すと、女の子は照れたように笑いながら、はい!と手紙のようなものを差し出した。



「えみりちゃん、あのね?えみりとお名前同じなんだよ?」



嬉しそうにそう言った彼女をまじまじと眺める。



「そっか、同じなのね?仲間だね」



彼女のご両親がえみりのファンで、子供に同じ名前をつけたのかもしれない。



差し出された手紙を受け取って、キュッと彼女をハグしながら、えみりは幸せな気分になっていた。




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