ダブルスウィッチ
「これからもがんばってください!」
一生懸命覚えたセリフを伝えてくれる同じ名前の彼女に、えみりはありがとうとにっこり微笑む。
バイバイ!と手を振りながら人混みの中に消えていく彼女の背中を目で追うと、遠くの方で両親らしき男女が手招きしているのが見えた。
あぁ、良かった……迷子じゃなかったのね?
えみりはホッとしながら、三人の姿を見送った。
用意されていた黒のワゴン車に乗り込み窓からニッコリと微笑みながら手を振る。
よくやくファンの姿が見えなくなった頃合いで、えみりはファンからのプレゼントや手紙に目を通した。
……あれ?
あのえみりという名の女の子がくれた手紙。
封筒に書かれた文字は大人のものだった。
えみりさんへ
そう女性らしい柔らかな文字で綴られている。
てっきりあの女の子が書いたものだと思っていたえみりは首をかしげた。
封筒から折りたたまれた和紙のような便箋を取り出し、そっと開いてみる。
やはりそこにも封筒に書かれたものと同じ文字が律儀に並んでいた。
一目見ただけでもわかる大人の文体は、えみりが今まで受け取ったどのファンレターとも違っていた。
鈴村えみり様から始まる冒頭の文面に、えみりはハッとした。