ダブルスウィッチ



「……じゃあ、俺は仕事に戻るから」



亮介がそう言って、枝分かれした道で立ち止まる。


彩子たちの向かう駅とは反対方向に進むらしい。


名残惜しげにえみりの手をそっと離すと、そのままその手を彼女の頭に優しく乗せた。



「じゃあな?えみり
パパはここでさよならだ」



クシャッとえみりの頭を撫でながら、愛おしそうに見つめる亮介に、彼女は恥ずかしそうに一度瞬いたかと思うと照れたように微笑んだ。


それからコクンと頷いてバイバイと遠慮がちに手を振る。


亮介はそれに応えるように軽く右手を上げた後、目線をあげて彩子を見た。



「じゃあ、日曜はよろしく頼む」




亮介がそう言うと、彩子も心得てるというように頷く。



「えぇ、ちゃんと準備しておきます」



会社の人を招いてのホームパーティは、相変わらず続いている。


それらをそつなくこなす彩子は、亮介の同僚や上司からうらやましがられる存在だ。


亮介の出世への道は彩子なしでは得られなかったものだと、最近の亮介は理解している。


彩子自身も、彼の夢、すなわち出世を手助けすることが自分の夢であると、この5年間それまで以上に頑張ってきた。












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