ダブルスウィッチ
彼の指定した場所は、プラネタリウムだった。


期間限定のその場所は、一人で行くには躊躇するものらしい。


そこに付き合うことで、こないだのことは無かったことにするよ、と彼は微笑んだ。


もうこの頃には、えみりの恋心は本物になりつつあった。


彼の言葉一つ一つが、えみりの心に響いていくのがわかる。


球体のプラネタリウムの中は、まるで宇宙の中に浮かんでるみたいだった。


こんな素敵な空間に彼といられることが嬉しくて、幸せな気持ちになる。


隣に座る彼の手に、そっと自分の手を重ねてみた。


ピクッと動いた彼の手が遠慮がちに離れていって、ガッカリしたとき――


今度は彼の大きな手が、えみりの手の甲を包み込むように触れてくる。


自分から仕掛けておきながら、心臓の音がうるさいほど鳴って、全神経が右手に集中した。


もしかしたらもしかするかもしれない。


そんな期待でいっぱいになっていることなど、彼は知るよしもないだろう。


外に出て食事をしようと歩き始めたとき、えみりは普通を装って彼の腕に寄り添った。

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