ダブルスウィッチ
背の高いえみりがヒールを履けば、ゆうに170センチは超えるかもしれない。


けれど彼と寄り添ってみても、肩に頭を乗せられるくらい充分な高さがある。


なかなかそういう男性に巡り会うことがなかったから、そんなところ一つとってみても彼は理想通りの男性だった。


「帰りたくない……」


思わずそう言ったのは、食事をして帰ろうとしたときのこと。


えみりの頭にポンと大きな手を乗せて、そんなこと言うもんじゃないよ?と優しくたしなめる彼。


それでも止まらなかった。


イルミネーションの優しい光が、えみりを大胆にさせたのかもしれない。


彼を困らせてるのはわかっていたけど、これを逃したらチャンスはない気がした。


だから、抱きついたのだ。


恋人同士があちらこちらで寄り添う姿に触発されたのかもしれない。


彼はしばらくそのままえみりの背中をポンポンと宥めるように叩いてから、ゆっくりと引き剥がした。


「僕には妻がいる

だから嬉しいけど、そういうことには応じられない

礼のつもりなら、もう充分だよ?

ありがとう」


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