ダブルスウィッチ
最初はもう一つえみりに買ってくれたのだと思っていた。


けれど店から出てきた彼が大事そうに抱えているそれは、最後までえみりの手に渡ることはなかった。


奥さんへのプレゼントだと知ったのは、そのあとのことだ。


珍しく彼が奥さんの話をしたのを聞いて、えみりの中で何かがもやもやと広がっていくのを感じた。


「うちの妻にもネックレスをプレゼントしたのに、全然喜ばなくてガッカリしたよ

えみりはあんなに喜んでくれたのにな?」


ベッドの上でえみりの髪を撫でながら、一人ごちる彼をぼんやりと見つめていた。


こんなときに奥さんの話なんかしないで!


えみりだけにくれたと思っていたプレゼントは、奥さんにも与えられているものだった。


あんなに嬉しくて喜んだえみりとは違って、奥さんは余裕の態度で受け取ったんだと憤りを感じる。


亮介を大事にしないなら、自分のものにしたっていいのだ。


妻という立場を変わってくれるのなら、いつだって引き受けてあげるとえみりは思う。


そこで初めて、えみりは亮介の妻がどんな人なんだろうかと興味を持った。


相応しくないなら奪ってしまいたい。


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