ダブルスウィッチ
そう思えば思うほど、自分の存在価値はどこにあるのか、疑問に思う。


彩子の作った朝食を食べ、彩子がシワを伸ばした糊のきいたシャツを着て、彩子がピカピカに磨いた靴を履いて出掛けていく。


抱かれない体は、錆びていくようで怖かった。


家政婦みたいだ、と彩子は思う。


自分はそのために選ばれただけの、都合のいいロボットなのかもしれない。


「あぁ、今日も遅くなる
夕食はいらないから」


以前は夕食もきちんと家でとっていた。


今思えば、あまり家で食べなくなったのは一年ほど前からだったように思う。


何も言わないけれど、残さず食べてくれるのが美味しいと思ってくれてる証拠だと、彩子は腕によりをかけて作っていた。


それが今じゃ一週間に2回は外で食べてくる。


きちんと連絡はくれるし外泊はしないけれど、それでも帰りは深夜の日付を跨いでずいぶん過ぎた頃だ。


仕事にしては微妙な時間。


接待だと言われればそれまでだ。


けれど帰宅してすぐに向かうはずの浴室に向かわないのは、どこかでもうシャワーを浴びてきたのかもしれないと彩子は思う。


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