ダブルスウィッチ
ふたを開けてみれば、なんてことはない普通のサラリーマンで、収入も悪くはないけれど、すごく金持ちというわけではなかった。


それでも結婚に踏み切ろうと思ったのは、彩子自身後がなかったからかもしれない。


33歳にもなって、実家暮らしの派遣社員。


妹二人は次々に結婚して、彩子はいつの間にかおばさんと呼ばれる立場にいた。


だから、彼を見つけたときは運命的な予感がしたのだ。


初めて亮介と顔を合わせたとき、彩子は驚きを隠せなかった。


好条件なのだから、容姿は少しくらい悪くても仕方ないと思っていたから。


目の前の彼は、スーツのよく似合うキリッとした印象の男性だった。


目元は涼しげで鼻筋もスッと通っていたし、唇の薄さが少しだけ冷たそうな印象に見えたけれど、それでもドキッとするくらいには彩子の心は揺れた。


どんな人でも、相手が望めば結婚してしまおうと思っていたのだ。


まさか、こんなに素敵な人が結婚相談所なんかで相手を見つけるなんて夢にも思わなかった。


ポーッとしている彩子に、亮介は表情ひとつ変えずに、スッと一枚の紙を差し出した。

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