ダブルスウィッチ
片方だけのピアス。


どんな気持ちでこれを入れたのか知らないが、バカな女だと彩子は思う。


彩子から亮介を取り上げようと思ってるのなら、それは見当違いの行為だ。


離婚しないのは彩子のせいじゃない。


亮介の都合なのだから……


摘まみ上げたピアスを眺めながら、どうしようかと思案する。


亮介に言うべきか、捨てるべきか、はたまた持ち主に返すべきなのか……


安っぽい細工のそれは、一目で若い子のものだとわかる。


意外だと彩子は思った。


どんな経緯で知り合ったんだろう?と思う。


あの亮介が若い女の子に熱を上げるなど考えられないことだ。


専業主婦とはいえ、彩子は英語も堪能だったし、料理や着付けなら若い子になど負けない自信がある。


亮介にしたって、その条件に見合っていたから結婚したのだ。


ピアスの趣味を見たってわかる。


頭の悪そうな見てくれだけの女に違いないと彩子は確信めいたものを感じた。


彩子は外見だけなら、43歳にしては若々しい方だった。


品のいい仕草は育った環境によるものかもしれない。


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